ハンドレンジの分類
プロフロップでのオープンやコール、3BET などのアクションは有益な情報で、どんなアクションを取ったかによってハンドレンジの傾向を見ることができます。傾向によって自分が積極的にベットしていくべきなのか、チェック/コールで EQ を守っていくべきなのかといった立ち位置がわかります。
アグレッションを有したままプリフロップを終えたプレイヤーはまだレイズの余地を残しているのでハンドレンジには高 EQ のハンドが多く含まれますが、コールで終えたプレイヤーは比較的中-低 EQ のハンドが多く含まれ、AxAx や KxKx のようなナッツ級のハンドを持ち得ません。
その他にも、自分のハンドレンジがどんなハンドで構成されているか次のような観点をもとに考察できます。
観点 | 意味 |
---|---|
カードのランクの分布 | アグレッサーのハンドレンジは A や K のような高ランクのカードを多く含み、反面 7 や 6 のような中-低ランクのカードはコーラーの側に多く含まれます。 |
レンジキャップの有無 | レイズ権を有したままストリートを終えたプレイヤーはナッツハンドを有している可能性が高いですが、レイズ権を放棄したコーラーがナッツハンドを持っている可能性は低いです。 |
EQ と EQR | ハンドレンジの全体的な強さにどれくらい差があるかの指標になります。 |
アウツのあるハンドの数 | ストレートやフラッシュなどのドローがあるかどうか |
リニアレンジ
ハンドレンジが EQ 最上位から中上位のハンドで構成されているとき、それを リニアレンジ (線形レンジ) と呼びます。例えば、プリフロップでの参加率が 15%のときに EQ 上位 15%のハンドのみで参加するとリニアレンジになります。
リニアレンジは直感的で扱いやすいハンドレンジではあるものの、ボードマッチがわかりやすいため相手からハンドレンジが絞り込まれやすいです。ぶつかっている相手は状況判断が比較的楽なのでリニアレンジでは利益を出しにくいと言えます。
ポラライズドレンジ
ナッツレンジとブラフレンジを中心に構成されたハンドレンジのことを ポラライズドレンジ (両極化レンジ) と呼びます。リニアレンジからナッツ級のハンドなど自信を持ってバリューベットできるハンドを残し、適量のブラフハンドを加えるとこの形になります。
ポラライズドレンジでのベットはリニアレンジでのベットに比べて EV が高い傾向にあります。バリューベットへのコールの誘因をブラフレンジが支え、ブラフベットへのフォールドの誘因をバリューレンジが支えるのが理由で、均衡戦略となるブラフ頻度でミックスしたベットアクションをとると相手のコール/チェックが無差別になるほか、その際でもベット額が高ければ高いほど EV も増加します。
一般的に、ベットやレイズなどの積極的なアクションを取れば取るほどハンドレンジはポラライズドレンジに近づいていきます。ベットアクションは高 EQ の手を主張していることになり、同時に一定のブラフレンジも混じるためです。
コンデンスドレンジ
中程度の EQ があるためにショーダウンバリューがあるものの、自信を持ってバリューベットできるほどではないハンドで多く構成されているハンドレンジをコンデンスドレンジと呼びます。
コンデンスドレンジは相手の消極的なアクションによってハンドレンジがこちらの相対的に強くなったり、アウツのランアウトによって状況が変化するまでは積極的なベットアクションを取れません。コンデンスドレンジの強みはショーダウンバリューがあることなので、ブラフキャッチによって利益を出していきます。
一般的に、コールやチェックなどの消極的なアクションを取れば取るほどハンドレンジはコンデンスドレンジに近づいていきます。
レンジアドバンテージ
その状況に応じて自分と相手のどちらの方が有利かを考える指針としてどちらのハンドレンジがよりアドバンテージを有しているかという考え方があります。
ナッツアドバンテージ
ポラライズドレンジがベットによって利益を上げることができるのは、ナッツハンドの存在がレイズの抑止力となっているのが大きいです。ナッツハンドの組み合わせが少ないハンドレンジでベットした場合、相手はこちらのナッツハンドを怖がらずにレイズできるので、一定の割合でフォールドさせられてしまいます。
そのため、ポラライズドレンジではナッツハンドの割合が相手よりも大きいことがすごく重要です。自分のハンドレンジが相手よりも多くナッツハンドを持ちうるとき、この状況有利を ナッツアドバンテージ と呼びます。
ナッツアドバンテージが大きければ大きいほど... つまり相手が持ちうる最高 EQ のハンドよりもこちらのバリューレンジが高い EQ を有していれば有している (=ナッツかブラフかという形で両極端化している) ほど、高い額をベットすることになります。
エクイティアドバンテージ
次のチャートは GTO Wizard が示した 100BB Effective 6-max での UTG のオープンレンジ (赤) と BTN のコールレンジ (緑) を表したものです。BTN は広いコールレンジからポットに参加していて、UTG はかなりの高 EQ ハンドに偏った狭いハンドレンジで参加していることを示しています。
フロップで A88 のようなボードが開いたとき、ナッツアドバンテージがあるのはおそらく BTN のプレイヤーでしょう。 8 のトリップスを作れる 8 8 は BTN のコールレンジに A7 K7 T7 87 76 など色々なハンドが思い浮かびますが、 87 以外はいずれも UTG のオープンレンジにあると思えません。
しかしハンドレンジ全体同士で比べた EQ としては UTG のプレイヤーの方が遥かに大きいものとなります。これはチャートを見ると明らかで、UTG のハンドレンジの多くは高 EQ ハンドに偏っており、BTN のハンドレンジは高 EQ から低 EQ までまばらに分布しています。A K Q J のヒットや、どちらのプレイヤーもボードをミスすることを考えると UTG のプレイヤーの方が EQ が高いのは明らかです。事実、計算すると UTG のプレイヤーは約 57%の EQ、BTN のプレイヤーは約 43%の EQ を有していることがわかります。
こうしたハンドレンジ全体での EQ の有利を保持していることを エクイティアドバンテージ と呼びます。
アクションによるハンドレンジの変遷
プリフロップを終えた時点でエクイティアドバンテージを有しているのはアグレッサーのプレイヤーです。しかし、ポストフロップではボードマッチによってどちらがレンジアドバンテージを有しているかが変わることがあります。
レンジアドバンテージの逆転
上で示した UTG のオープンレンジと BTN のコールレンジで比べて、どんなときにレンジアドバンテージが変わるかを考えてみます。
AK2 のようなフロップではUTGのプレイヤーが依然ナッツアドバンテージもエクイティアドバンテージも有していると考えられます。 A や K のヒットの組み合わせはUTGの側に多く、ナッツ級のハンドが作られる AA や KK を持つのもUTGのプレイヤーだけです。
しかし、 765 のようなボードではどうでしょう。どちらのプレイヤーも 98 77 66 55 76 のようなナッツ級のハンドを持っている可能性はありますが、UTGのプレイヤーが圧倒的にアドバンテージを有しているとは言えません。
また、ターンで 4 のようなカードがランアウトすると一気に様変わりします。 8 や 3 でストレートが作られることを考えるとUTGのプレイヤーのハンドレンジからレンジアドバンテージが奪われてしまったように見えます。UTGのプレイヤーにできるのは JJ のようなハイポケットペアや AQ のようなフラッシュドローでのコールが主になってしまいます。
ボードのダイナミシティ
このように、ポストフロップ以降ではレンジアドバンテージが入れ替わりやすいボードとそうでないボードがあります。レンジアドバンテージの逆転が起こりやすいものを ダイナミックなボード (静的なボード) と、あまり逆転しないものを スタティックなボード (動的なボード) と表現します。
ボードテクスチャの種類 | 時点特性 | 変化性 | 備考 |
---|---|---|---|
ペアボード | ドライ | ダイナミック | ペアになっているランクによってはレンジアドバンテージが大きく逆転します。 |
モノトーン | ウェット | ダイナミック | ナッツアドバンテージの逆転が起こりやすいです。Aがモノトーンになっている時は逆転がやや弱くなります。 |
ツートーン | - | ややダイナミック | その時点でナッツアドバンテージの逆転が即座に起こるわけでは無いものの、その後のランアウトによっては逆転する可能性が充分にあります。 |
コネクテッド | ウェット | ? | ウェットだと言えますが、ダイナミックかどうかはランクによって大きく違います。 |
レインボー | ドライ | スタティック | レンジアドバンテージの逆転が起こりにくいです。 |
ボードカバレッジ
リニアレンジのみでのプレイが弱い理由のひとつに、 ボードカバレッジ の問題があります。ボードカバレッジとはポストフロップのランアウトにおいてどれだけの種類のカードに対応できるかということを指します。
例えば 55+, A8s+, K8s+, Q8s+, J8s+
というハンドレンジはボードカバレッジに大きな問題を抱えます。ポストフロップで 7 といったカードがランアウトした際にヒットするハンドが 77 のみしかありません。ここまで極端なハンドレンジでプレイすることはまずありませんが、アクションの選択によってはある種のボードへのマッチが少ないハンドレンジを持ってしまうことはありえます。
ボードカバレッジを高く保つには、ハンドレンジの大部分をなるべく純粋戦略ではなく混合戦略にすることです。たとえばハンドレンジの構築において 88 77 66 55 といった4種類のハンドのうち2種類ぶんを組み込みたいときは、上から2つ 88 と 77 をどちらも「100%ベット」という形で入れるのではなく、 88 を70%、 77 を50%、 66 を40%、 55 を 40%の頻度でそれぞれベットする、という組み込み方にするとボードカバレッジが改善します。
これはポストフロップでベットするときや、相手のベットに対抗するときにも同じことが言えます。ある一定のハンドを100%コールもしくは100%フォールドするよりも、より多様な種類のハンドで混合戦略的にコールとフォールドを混ぜていく方が次のストリート以降での様々なランアウトに対応しやすくなります。